自伐型林業家紹介

菊池俊一郎さん「農家林家という生き方」(愛媛県西予市)

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 林業衰退──。そんな言葉を跳ねのけるような林業家が愛媛県西予市(旧三瓶町)にいる。かつては衰退産業といわれてきた林業だが、「小規模低投資の“自伐(じばつ)型林業”なら誰でも始められて、収入にもつながる」という。日本列島の7割を占める山林を活用できれば、中山間地域の暮らしは安定する。みかん生産との兼業スタイルを続ける菊地俊一郎さん(43)を訪ねた。(写真:高木あつ子)

農家林家という生き方

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 熟した温州みかんの圃場を見下ろしながら、ヒノキの山を目指す菊池俊一郎さん。
 「12月までがミカンの収穫予定でしたが、悪天候で年をまたいでしまいました。農業は天候に左右されますね。まあ、こういう時は“山の時期”を少しずらせばいいだけの話です」
 「山の時期」とは、林業のシーズンのこと。菊池さんは約2.1ヘクタールの畑で、妻と両親とともに温州みかんや甘夏、はれひめなど約10種類の柑橘類を育てる農家でありながら、所有する約27ヘクタールの山(人工林率約85%)で林業を営んでいる林業家でもある。
 「安定した経営をするためにも、農業と林業の兼業はベストですよ」

手元に収入を残す低投資の自伐型林業

 菊池さんは地元の高校を卒業後、秋田県内の大学に入学した。卒業後すぐにUターンしたのは今から19年前の1997年のこと。その頃といえば、地域の林業後継者はゼロに近い時代であったという。だからこそ「勉強するには追い風だった」と菊池さんは話す。
「当時は5〜60代の技術者がまだたくさんいた時代。県内の技術者4人を渡り歩き、泊まり込みで教わりました。親にはていないな仕事の仕方を、よその師匠たちからは技術とスピードを学んで今の自分がいます」
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 ひとくちに林業と言っても、さまざまな形態がある。現行の林業は、山の所有者はみずから山に入らず、事業者や森林組合などに伐木などの山林整備を委託する形が定着しつつある。国もそれを推奨してきた。「他人に任せれば、日当など経費が発生し、お金が山主の手元に残らないのは明らかです」と菊池さんは首をかしげる。山主から作業を請け負う事業体は、任された山に大型機械を入れて短期集中で作業を行い、次の現場へと移っていく。一度の施業でなるべく多くの木材を出したいので、一定範囲の木をすべて伐採する皆伐(かいばつ)や、過剰な間伐をする傾向がある。山肌がむき出しになれば、土砂崩れを引き起こす可能性も高まる。
 「林業で収入を得続けるポイントは、過度な間伐をしないこと。そして、高い機械を買わないこと。経費をかけず、手元にお金を残し、山にも木を残す。環境負荷をかけない自伐(じばつ)型林業ならやっていけます」
 自伐型林業とは、所有者や地域住民がみずからが伐木、搬出、出荷する林業で、持続的に収入を得続けられるような山をつくっていくもの。択伐(抜き切り)を中心に据え、環境にも優しく、機械も最低限のもので間に合う。「たとえ機械が壊れても自分で直します。林業で儲からない人は、機械の更新時期が早過ぎる人でしょう」と愛用の林内作業車を見せてくれた。今年で28年目を迎えるという。チェーンソーで伐ったヒノキやスギを山から搬出する際の必需品だ。こまめなメンテナンスのおかげで目立った故障もなく、これまでエンジンを一度取り替えただけですんでいる。

_MG_7974「父が当時70万円で購入した機械です。最低でも5〜6千万円分の木材を搬出しています。私をふくめ、3人の子どもが学校にいけたのはこの林内作業車おかげです」と車両を眺めながら笑顔で語る。

(写真:菊池さんが使う道具一式。自伐なら初期投資は300万円程度で始められる。面積規模の大小は問わない)


 菊池さんは国からの補助金は受け取っていない。そもそも現在の林業制度では30ヘクタール以上のまとまった山林がなければ補助対象外になるが、「補助金のために良木を伐るぐらいなら、受け取らずに木を残しておいた方が将来的には得策でしょう」と話す。伐った木材は、山のそばにある製材所か木材市場におろす。県内の工務店ともネットワークを作るため、「エンドユーザーが欲しいものをその場で選んで出荷するので、機械的に一律の長さで伐って出荷するよりも一本あたりの単価も高くなります」と話す。

変化にも強い林業との兼業スタイル

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(写真:菊池さんの山は一部が100年生だが平均林齢は60年。山にはシイタケのホダ木が残る)

 菊池さんが林業を軸にした兼業にこだわるのには理由がある。菊池さん一家は、条件不利な中山間地域で、国内外の変化の波に常にさらされてきた。祖父母の代は乾燥シイタケを主力生産していたが、全国で産地が増え、海外からの輸入も増え、80年ごろには生産量を減らしていった。同じ頃、山の一部を切り開いて柑橘の生産を始めると、オレンジが輸入自由化に。果汁用の最低価格保証は年々減り、最終的にはゼロになった。
 「誰も助けてくれませんでした。生きていくためには、品質を上げる自助努力をするしかありませんでした」
 みかんの収入はいまでも不安定だ。収穫量や味は毎年バラつきがある。さらに、相場は日々変動する。「株式市場のように、前の日の半額の値段がつくこともあります。相場師にでもならなければ、安定収入は保証できません」
 それでもなんとか持ちこたえられたのは、江戸時代から引き継いできた山からの収入があったから。現在は、みかんと林業の売り上げ比率は6:4で、年間売上はあわせて1,000万円弱をキープする。

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「みかんの収量や売り上げが下がれば、間伐をして木材を出荷します。逆に安定した売り上げが出せれば、枝打ちや除伐など直接収入にはつながらない次世代のための手入れをする。変化が激しい時代だからこそ、兼業がいい」
 戦後50万人以上いた林業従事者は、現在は約5万人にまで減少した。しかし、農林水産省によると現在でも約90万戸の農家が山林を所有し、そのうち約58万戸が1ヘクタール以上の山林所有者だ(2010年世界農林業センサス)。
 「農家でもサラリーマンでも、休日林業から始められます。小さな林地であっても、クヌギを使ったシイタケ生産もできます。山を活用する仲間がひとりでも増えて、忙しい時には林業の仕事をシェアできるようになったら嬉しいです」(文:上垣喜寛/2016年4月)

菊池林業の収支

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(写真:ミカンの圃場を囲むようにヒノキの山が広がる)

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(写真:母(中央)父(右)とともに)

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