自伐型林業家紹介

明神林業「ここはどん詰まり集落、自伐起業村」(高知県仁淀川町)

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(写真:期待の若手社員と片岡博一さん(中央))

「こら!バックするならギア握った瞬間に後方確認!次、忘れたらクビだぞ!」
 株式会社明神林業の代表・片岡博一(ひろいち)さんの一喝が山に響いた。
 4人の若い従業員が間伐材の搬出作業をしている。怒られた一人は一瞬照れ笑いを見せたがすぐ真剣な顔つきに戻った。誰もみな生き生きと、仕事と向き合っている。
 明神林業がある高知県の仁淀川町は、かつて「限界集落」という言葉が生まれた「超」山間地域だ。その仁淀川町ではこの10年で自伐型林業家が30名以上誕生しているという。片岡さんも10年前に林業を始めた一人だ。そして林業がやりたくて、若い移住者も増えてきた。
 他でもない「自伐型林業」が、集落に仕事と元気を取り戻している。(写真:高木あつ子/文:鴫谷幸彦)

Uターンから自伐の道へ

(写真:高知市内から車で約2時間半かかる仁淀川町上名野川(かみなのかわ)集落)

 片岡さんは10年前まで高知市の工務店に勤めていた。いずれ独立して工務店をするつもりで何でも挑戦した。営業、モデルルームの開催、パソコンでチラシを自作して配った。山で木を選び、製材所で加工し建てる家づくりをした。副業で飲み屋をやり経営ノウハウを学んだりもした。空いた時間で必死に勉強をして資格もたくさんとった。
 そんな頃、最初に林業を始めたのは叔父の片岡今朝盛(けさもり)さんだった。今朝盛さんに刺激を受け父の利一さんも林業を始めることになる。もともと利一さんは土木関係に勤めながら、スキー場の経営やイノシシの養殖、豆腐屋、雑貨屋、たばこ屋などあらゆる仕事を自分で作ってきた人である。他の事業で稼いだお金で山林を買い集め、20ヘクタールの持山が定年する頃には45ヘクタールまでなっていた。すっかり林業が面白くなった利一さん、今度は息子を誘い込む。片岡さんが試しに機械を借りて木を伐り出してみたところ、思っていた以上の売り上げに驚いた。会社が希望退職を募ったのを機に、片岡さんは40歳で退職した。「よっしゃ、これまでの経験を全部林業にぶつけちゃろう!!」

(写真:林業について語りだすと止まらない片岡博一さん)

 林業の技術は父・利一さんに学んだ。もともと土木関係で仕事をし、山の作業道づくりの経験が豊富な利一さんが道をつけ、片岡さんがひたすら伐倒するという分業体制をとってきた。その作業道づくりも5年前から徐々に片岡さんが引き継いだ。山林は年々買い足し、まもなく100ヘクタールに届くという。
 2010年に会社化し、現在は事務員1名、山仕事をする若い従業員が4人。来年はさらに町外から2人を雇う予定だという。親子で始めた自伐型林業は、地域の雇用を生むまでに大きく成長した。

「補助金はいつまでも続かない」

 現在の明神林業の年間売り上げは約7,000万円。そのうち3,000万円が補助金収入だ。「森林経営計画」「緊急間伐補助事業」「造材事業」など、使える制度はとことん使っている。その上で「今儲けたお金を次にどう活用していくかが大事」と片岡さんは考えている。
 まずは山主さんへの利益還元だ。借りている山もあり、その時は山主さんには間伐の補助金とA・B材の売り上げの全額を渡している。額にして1ヘクタール当たり100万円。間伐は山主さんの気持ちになり、相談をしながら、あまり太い木は切らずに将来に木を残すことを心掛けている。信用が次の仕事を呼び、明神林業に施業を任せたいという山主さんの輪が広がってきた。
 そして自分が所有する山林に関しては、高密度に作業道を入れることで補助金を得て、それを次の山林購入の費用に充てている。

(写真:自伐型林業に不可欠な作業道は幅2.5メートル以下)

 仁淀川町では作業道を敷設すると、県の制度と合わせて1メートルあたり平均1,700円の補助がつく。「補助金はいつまでも続かない。だからこそ補助金が出るうちに作業道をしっかりつくって搬出がラクな山にしておく。補助金がなくなったら180度経営転換して木を切って食っていけばいい」
 3つ目は若者への投資だ。町の定住事業や「緑の雇用」事業を活用し、積極的に雇用を受け入れている。地域に若者が増え、昨年は30年ぶりに伝統の奉納相撲が復活した。さらに勢いは止まらない。県のよさこい祭に「地方車」を携えチームで参加。乗りに乗っている。

無いなら作ろう原木市場

 仁淀川町で自伐型林業が盛り上がっている要因に「仁淀川林産協同組合」の存在が大きい。
 同町から仁淀川を下った佐川町に2011年、地域の木材を集荷する共同販売所を設立した。片岡さんを始めとする町内の林業関係7事業体が100万円ずつ出資してスタートさせた原木市場だ。「木材相場の読みはトップレベル」と自称する片岡さんが、ここの代表も務めていて、年間3万立米というロットを売りに、市場価格よりも高い価格で、県内外の製材所やバイオマス発電所などに売り込んでいる。組合ができる以前、切った木は峠を越えて愛媛県の市場まで持って行っていた。それがこの組合ができたおかげで出荷が随分ラクになり、自伐型林業者の搬出量もぐんと増えた。

(写真:仁淀川林産協同組合の土場には佐川町、越知町など約30キロ圏内から木材が運び込まれる)

 仁淀川町独自の支援体制も光る。1立米あたり750円の運搬補助、未利用材のC材が高く売れる「バイオマス証明書」の発行など、山林を所有する自伐林家のやる気を引き出し、新規参入した自伐型林業家を下支えする仕組みがある。

小さな装備で挑む「自伐型林業には工夫の余地がある」

 片岡さんは「仕事の効率化」の話になると止まらなくなる。
 たとえば選木。片手にカッターを持ちながら目印のテープを幹に巻き、足場屋さんが使う方法で瞬時に結び、さっとカッターでテープを切る。この間わずか1秒。しかも結ぶ時は手元を見ずに次の木を探しているので、立ち止まることなく流れるように作業が進んでいく。

(写真:目印の紐を結いてカットするまで一秒程)

 伐倒も早い。給油に戻る時間を短縮するために、チェーンソーオイルや燃料がちょうどなくなる距離で往復して戻って来られるよう、作業に取り掛かる前から折り返し点を考えている。燃料の携行缶などの移動を最小限に抑える狙いだ。
 圧巻は切った木材の搬出システムだ。明神林業では事業体の最低限の機械化としてグラップル(バックホーのアタッチメントで、運転席に座ったまま木をつかんで持ち上げられる)を導入している。搬出作業は2人組で行い、切り倒された木をグラップルで掴み道まで引きずり寄せ、片方を持ち上げた状態でもう一人がチェンソーで切る。切った木材は掴まれたまま後方のフォワーダへと積み込んでいく。木材をいちいち地面に降ろさない「空中戦」だから早い。伐倒したすべての木にグラップルが届くよう平行に一定間隔で作業道が設計されている。そして満載したフォワーダがトラックの積み込み場へ最短で行って戻って来られるよう、搬出道が作業道に対して斜めに交わっている。

(写真:グラップルを操作する若手。明神林業の採算ライン1日一人5立米。30メートル下には作業道が走る)

 片岡さんいわく「このやり方なら効率はハーベスタと変わらん」。ハーベスタとは伐採から玉切りまで一連作業でこなす機械のこと。もちろん作業員の技術レベルやチームワークにも拠るだろうが、効率があまり変わらないなら、大型の高性能林業機械より低コストの小規模機械のほうが初期投資も少なく、償却を抑えられて断然お得だ。そしてなにより小さな装備で挑む自伐型林業には工夫の余地がある。そこが面白いところなのだ。

主業へのステップアップ

 高知県が立ち上げた支援組織「高知県小規模林業推進協議会」の調べによると、仁淀川町を上流に持つ仁淀川流域を中心にした地域(中央西林業事務所管内)では、普段から山林に入り、収入を上げている自伐型林業家は100人を超えているという。同県の森林ボランティア団体である「土佐の森・救援隊」の活動や研修に参加した人たちが10年弱の間に各人が山間部で仕事をつくってきた証拠ともいえるだろう。所有者、ボランティア、副業、主業と下から順にステップアップしていくピラミッドが再構築されつつあり、頂点にある「主業」を築いている代表格が明神林業なのだ。

(イラスト:仁淀川流域で広がる自伐型林業の形)

(写真:「土佐の森・救援隊」が行う高齢者への薪配達。ボランティア活動から福祉活動まで幅広い中山間地の暮らしにつながる)

「あいつはチェンソー使わせたらうまいな。毎朝誰よりも早く来て目立てしている」
「あいつは機械のセンスがいい。呑み込みが早いよ」
 片岡さんは若い従業員を一人一人よく見ている。期待しているからこそ真剣に指導するし、安全な作業ができるまでとことん教え込む。また飲み会に連れ出したり、よさこい祭りに参加させたり、知り合いの少ないIターン者に交流の場を作ってきた。

(写真:片岡さんの指導は厳しいが的確だ)

「若い連中にはいずれ独立してほしい。大きな事業体より自伐型林業家が増えるほうが、地域の林業は安定するやろ。そうしたら自分も気楽な一人の自伐林家に戻れるきね」(写真:高木あつ子/文:鴫谷幸彦)

(写真:朝から晩まで林業のことを考えているという片岡さん。休日は開店からホームセンターに行き、ジャンルを問わず道具を眺める。新商品の工夫が経営アイデアの源泉になる)

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